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豪州 外国影響力透明化法(FITSA)解説

オーストラリアの外国影響透明化スキーム法(Foreign Influence Transparency Scheme Act 2018)とは何か

オーストラリアの「2018年外国影響透明化スキーム法(Foreign Influence Transparency Scheme Act 2018)」(以下「本法」)は、外国勢力がオーストラリアの政治や政府の意思決定プロセスに与える影響を可視化し、その透明性を確保することを目的とした法律である。本稿では、2024年10月14日時点のコンピレーション(Compilation No. 5)に基づき、その制度の概要を解説する。

1 本制度の目的と基本構造

本法の目的は、外国政府その他の外国の依頼主(foreign principals)のために一定の活動を行う者について登録制度を設け、その活動の透明性を向上させることにある(第3条)。

本制度は活動そのものを禁止する法律ではない。むしろ、「誰が」「誰のために」「どのような活動を行っているか」を登録・公開することによって、外国勢力による政治的影響力の行使を国民の監視の下に置くことを目的としている。

2 重要な定義(第10条〜第14条)

(1)外国の依頼主(Foreign Principal)

本法上の「外国の依頼主」には、次の4類型が含まれる(第10条)。

  • 外国政府(Foreign government)
  • 外国政府関連団体(Foreign government related entity)
  • 外国政治組織(Foreign political organisation)
  • 外国政府関連個人(Foreign government related individual)

このうち「外国政府関連団体」には、例えば次のような主体が含まれる。

  • 外国政府又は外国政治組織が発行済株式総数の15%超を保有する法人
  • 外国政府又は外国政治組織が議決権の15%超を保有する法人
  • 外国政府又は外国政治組織が取締役の20%以上を選任できる法人
  • 取締役が外国政府等の指示、命令又は意向に従う慣行又は義務を有する法人
  • 外国政府等がその他の方法により実質的支配を行う法人

また、「外国政府関連個人」とは、外国政府等との関係により、その指示や意向に従う関係にあり、かつオーストラリア市民又は永住者ではない個人をいう。

(2)外国の依頼主のための活動(第11条

活動が本法の対象となるためには、単なる協力関係では足りず、次のいずれかに該当する必要がある。

  • 外国の依頼主との取決め(arrangement)に基づく活動
  • 外国の依頼主への役務提供(service)としての活動
  • 外国の依頼主の命令、要請又は指示に基づく活動
  • 外国の依頼主の指揮監督の下で行われる活動

さらに、その取決めや指示がなされた時点において、活動を行う者と外国の依頼主の双方が、その者が本法上の登録対象活動を行うことを認識し、又は予期していたことが必要とされる。

なお、外国企業の子会社であるという事実のみでは、本法上「外国の依頼主のための活動」とはみなされない。

(3)政治的・政府的影響を目的とする活動(第12条

本法の対象となる活動の多くは、次の事項に影響を与えることを唯一の目的、主要な目的又は実質的な目的としている必要がある。

  • 連邦選挙又は指定投票(designated vote)
  • 連邦政府の意思決定
  • 連邦議会の審議
  • 登録政党の活動又は意思決定
  • 無所属連邦議員の活動
  • 無所属候補者の活動
  • 登録政治キャンペーン団体(political campaigner)の活動

また、公衆又は公衆の一部に影響を与えることを通じて、これらの政治的又は政府的プロセスに影響を与える活動も対象となる。

3 透明性通知(Transparency Notices)制度(第14A条〜第14J条)

本法は、外国政府関連団体又は外国政府関連個人に該当すると事務次官(Secretary)が判断した場合に、透明性通知(transparency notice)を発出できる制度を設けている。

事務次官は、対象者が外国政府関連団体又は外国政府関連個人であると認める場合、暫定透明性通知(provisional transparency notice)を発出することができる(第14B条)。

対象者は、招待状(invitation)の日付から14日以内に意見又は反論を提出することができる(第14C条第2項)。提出された意見は事務次官が検討しなければならない。

暫定透明性通知は、招待状の日付から28日以内に撤回されなければ、自動的に最終透明性通知(final transparency notice)となる(第14C条第4項)。

透明性通知は、最初にウェブサイト上で公表された日に効力を生じ、撤回されるまで効力を維持する(第14D条)。

また、透明性通知に関する決定については、行政レビュー裁判所(Administrative Review Tribunal:ART)への審査請求が認められている(第14H条)。

4 登録義務(第15条〜第23条)

(1)登録のタイミング

登録義務が発生した者は、原則として14日以内に登録申請を行わなければならない(第16条)。

登録義務は、活動終了及び登録対象となる取決めの消滅を事務次官へ通知し、登録終了手続が完了するまで継続する(第19条、第31条、第32条)。

(2)登録対象となる活動

外国政府のための議会ロビー活動(第20条)

外国政府のために連邦議会議員又は議員スタッフに対するロビー活動を行う場合は、政治的影響目的の有無を問わず登録対象となる。

政治的・政府的影響を目的とする活動(第21条

以下の活動が対象となる。

  • 議会ロビー活動(parliamentary lobbying)
  • 一般政治ロビー活動(general political lobbying)
  • コミュニケーション活動(communications activity)
  • 資金提供活動(disbursement activity)

元閣僚(Former Cabinet Ministers)(第22条)

元閣僚は、外国の依頼主のために行う活動について、期間制限なく登録義務の対象となり得る。特に、第20条(議会ロビー活動)、第21条(政治的・政府的影響活動)又は第23条(元指定職保持者)に該当しない場合であっても、外国の依頼主のために活動を行うときは、第22条により登録義務が課される。第22条は、元閣僚による外国主体のための活動を広く捕捉する補完的な規定として位置づけられている。

元指定職保持者(Recent Designated Position Holders)(第23条)

過去15年以内に指定職保持者であった者が、その職務で得た経験、知識、技能又は人的ネットワークを利用して外国の依頼主のために活動する場合は登録義務の対象となる。

指定職保持者には、次の者が含まれる(第10条)。

  • 大臣(Minister)
  • 連邦議会議員
  • 上級顧問(Senior Advisor)以上の職位にある議員スタッフ
  • 政府機関長(Agency Head)
  • 副機関長
  • これらに相当する法定職保持者
  • 大使及び高等弁務官

5 免責規定(第24条〜第30条)

本法は一定の活動について登録義務を免除している。主な免責事由は次のとおりである。

  • 人道支援活動(第24条)
  • 法的助言及び法的代理活動(第25条)
  • 国会議員及び法定職保持者の活動(第25A条)
  • 外交・領事活動(第26条)
  • 宗教活動(第27条)
  • 外国政府職員による公的活動及び通常の商業活動(第29条)
  • 業界団体活動(第29A条)
  • 個人的代理活動(第29B条)
  • 登録慈善団体による活動(第29C条)
  • 芸術活動(第29D条)
  • 一定の登録団体による活動(第29E条)
  • 税理士、通関業者、管財人等の専門職活動(第29F条)

6 登録者の義務(第33条〜第40条)

登録者には継続的な報告義務が課される。

変更報告義務(第34条)

登録情報に重要な変更が生じた場合は、14日以内に事務次官へ届け出なければならない。例えば、新たな種類の登録対象活動を開始した場合や、報酬条件に変更が生じた場合などが含まれる。

資金提供活動の報告(第35条)

政治的・政府的影響を目的とする資金提供活動については、一定額(選挙寄付開示基準額)に達した時点で報告義務が発生する。通常は14日以内、選挙期間中は7日以内の報告が求められる。

選挙期間中の特別報告(第36条・第37条)

連邦選挙又は指定投票の投票期間が始まると、登録者は登録情報の見直し及び確認報告を行わなければならない。また、選挙期間中に行われた一定の登録対象活動については7日以内の報告義務が課される。

コミュニケーション活動における開示(第38条)

外国の依頼主のために登録対象となるコミュニケーション活動を行う者は、外国の依頼主との関係を明示する開示表示(disclosure)を行わなければならない。これは登録者であるか否かを問わず適用される。

年次更新及び記録保持(第39条・第40条)

登録者は毎年登録を更新しなければならない。

また、登録対象活動、利益供与、コミュニケーション資料、登録対象契約等に関する記録を、登録終了後3年間保持しなければならない。ただし、個別記録については作成日から10年を超えて保持する義務はない。

7 情報の管理及び公開(第41条〜第55条)

事務次官は制度に関するレジスター(Register)を維持しなければならない(第42条)。

レジスターには登録申請書、変更届、更新情報、透明性通知その他の制度関連情報が記録される。

また、次の情報はウェブサイトを通じて一般公開される(第43条)。

  • 登録者及び外国の依頼主の名称
  • 登録対象活動の概要
  • 規則で定められた追加情報

ただし、商業上機微な情報、国家安全保障に関する情報その他規則で定める情報は公開されない。

さらに、事務次官は登録義務の有無を確認するため、情報提出命令(第45条)及び文書提出命令(第46条)を発する権限を有する。これらの命令に従わない場合には刑事罰が科される。

8 罰則(第56条〜第61A条)

本法は実効性確保のため刑事罰を設けている。

主な違反類型は次のとおりである。

  • 登録義務違反(第57条)
  • 虚偽の登録終了通知(第57A条)
  • 報告義務又は記録保持義務違反(第58条)
  • 情報提出命令違反(第59条)
  • 虚偽又は誤解を招く情報・文書の提出(第60条)
  • 記録の破壊又は隠匿(第61条)

また、元閣僚及び元指定職保持者に関する一定の犯罪については、オーストラリア国外で行われた行為にも適用される Category D geographical jurisdiction が規定されている(第61A条)。

9 管理及び見直し(第62条〜第71条)

事務次官は毎年、本制度の運用状況について大臣へ年次報告書を提出しなければならない(第69条)。

また、議会合同情報・安全保障委員会(Parliamentary Joint Committee on Intelligence and Security:PJCIS)は、本法の運用状況、有効性及び影響について定期的なレビューを実施し、議会へ報告することとされている(第70条)。

結論

外国影響透明化スキーム法(FITS法)は、外国による政治的影響力の行使を禁止する制度ではなく、その存在を可視化し透明化することを目的とする制度である。登録制度、情報公開、コミュニケーション活動における開示義務、元閣僚及び元高官に対する特別規制、透明性通知制度などを組み合わせることにより、外国勢力による影響活動を国民の監視の下に置こうとする包括的な透明性法制となっている。日本版FARAや外国影響力登録制度を検討する際にも、多くの示唆を与える制度設計といえる。