1 外国干渉防止法は、なぜ一つの法律では足りないのか
2 米国――FARA・LDA・§951の境界はどのように形成されたのか
3 豪州――広く捕捉しながら、十分に執行できるか
4 英国――国家安全保障法制の中で段階的規制を構成する
5 カナダ――独立Commissionerによる透明性モデル
6 四か国の違いをどう読むか――複合制度と政策拡散
7 外国干渉規制は、どのように失敗するのか
8 日本では、境界線をどう設計するか
9 外国干渉防止法とは、正当な影響と不正な干渉の境界を作る制度である
| 要旨 外国政府等による政治過程への不透明な関与に対し、米国、豪州、英国、カナダでは、透明性規制、禁止規制、刑事規制を組み合わせた制度が形成されている。本稿は、これらを複数の代理指標と規制技術によって外国影響を捕捉する「複合制度」と捉え、各国の制度形成と規制上の失敗を比較する。そのうえで、外国干渉防止法制の設計においては、透明性規制、禁止規制、刑事規制の射程だけでなく、政策参加の自由との境界、適用除外、執行体制を含む制度全体の構造が検討課題となることを示す。 |
キーワード: 外国干渉、外国影響、外国代理人、FARA、LDA、18 U.S.C. §951、FITS、FIRS、FITAA、複合制度、ロビイング規制、請願権
1 外国干渉防止法は、なぜ一つの法律では足りないのか
日本語による先行研究としては、福田健志「オーストラリアとイギリスのスパイ行為等に対する罰則」『レファレンス』905号(2026年)53頁以下が豪英のスパイ罪に加えてforeign interferenceについても整理を行っており、中村絢子「諸外国におけるロビー活動規制」『レファレンス』888号(2024年)111頁以下が米・英・独・仏・加・伊のロビー活動規制を横断的に整理している。既存邦語文献が個別の国家安全保障犯罪又はロビー活動規制を整理しているのに対し、本稿は外国影響という観察困難な対象について、透明性・禁止・刑事規制等を組み合わせる制度構造そのものを比較対象とする。
日本でも「外国干渉防止法」という言葉が使われるようになった。しかし、米国、豪州、英国、カナダを見ても、日本で現在イメージされている「外国干渉防止法」にそのまま対応する単一の法律が存在するわけではない。外国政府等との関係を開示させる制度、特定の外国資金や行為を禁止する制度、秘密裡の外国政府代理活動を処罰する制度、欺罔や威迫を伴う外国干渉を犯罪とする制度など、性質の異なる複数の制度が併存している。
なぜ一つの制度では足りないのか。理由の一つは、「外国による政治的影響力」そのものが法的には観察しにくいからである。外国政府がある政策決定にどの程度影響したかを直接測定することは難しい。そこで法制度は、誰の指示を受けているのか、誰から資金を受けているのか、どのような活動を行ったのか、その関係を公開しているのか、秘密・欺罔・威迫が存在するのか、といった複数の代理指標を用いて外国影響を捕捉することになる。
本稿でいう「複合制度」とは、単に複数の法律が存在するという意味ではない。一つの観察困難な政策問題を、異なる代理指標と異なる規制技術を組み合わせることによって捕捉する制度構造をいう。この視点に立てば、外国干渉防止法制について問うべきなのは、「どの外国法を導入するか」ではなく、①何について開示を要求するのか、②何を禁止するのか、③どこから刑事罰を用いるのか、④何を通常の政治参加、ロビイング、研究、報道等として規制の外に残すのか、という境界線の設計である。
もっとも、主要4か国はいずれもFive Eyesを構成し、制度形成の過程で相互の法制度を参照してきた。したがって、4か国に複合的な構造が見られることだけから、それを外国干渉規制の普遍的な帰結と断定することはできない。同じ政策問題への対応から似た制度に至った「機能的収斂」なのか、同盟国間の「政策拡散」なのかは区別して考える必要がある。この二つの説明には異なる予測が伴う。前者の説明力が強いのであれば、Five Eyes外の異なる法的伝統を持つ国でも、外国干渉への対応が進むにつれて、透明性、情報収集、禁止、刑事規制等を組み合わせる制度構造が現れるはずである。逆に政策拡散が主要因であれば、その構造は英米法系・安全保障協力圏により強く集中すると予想される。実際、フランスは2024年の外国干渉防止法によって、外国勢力のために活動する者の登録制度をHATVPの下に設けるとともに、情報収集手段の拡張、資産凍結、外国勢力の利益のために行われた犯罪の刑罰加重等を同じ改革の中で整備している[1]。大陸法系にも複合的な構造が現れていることは、機能的収斂の可能性を示す一つの材料となるが、なお比較対象を広げた検証が必要である。
本稿でいう外国影響透明化制度は、一般的なロビー活動透明化制度と規制対象・立法目的が重なる場合があるが、同一ではない。中村論文が整理する米・英・独・仏・加・伊等のロビイスト登録制度は、いずれもロビイスト登録簿を有する一方、対象公職者、顧客情報、支出報告等の制度内容は国により異なっており、外国主体との関係に着目する外国影響透明化制度とは区別して検討する必要がある。
2 米国――FARA・LDA・§951の境界はどのように形成されたのか
米国のForeign Agents Registration Act(FARA)は1938年に制定された。FARAは、一定のforeign principal(外国主体)の代理人として政治活動その他法律上定められた活動を行う者に対し、司法省への登録と情報開示を求める。基本的な規制技術は「禁止」ではなく「開示」である。外国のために政治活動を行うことそれ自体を原則として禁じるのではなく、誰のために活動しているのかを政府と国民に明らかにする[2]。
これに対して18 U.S.C. §951は、外交官等の例外を除き、外国政府またはその職員の「direction or control」の下で米国内において活動する個人について、司法長官への事前通知を要求し、違反に刑事罰を科す[3]。FARAと§951は重なる場面を持つが、規制対象も構造も同じではない。FARAは政治活動や広報、政府への働きかけ等について外国主体との関係を透明化する制度であり、§951は外国政府の指揮・統制下で活動する者の無届活動を刑事法によって捕捉する。
さらに米国では、1995年のLobbying Disclosure Act(LDA)がFARAとの関係に新たな境界を形成した。一定のロビイング活動についてLDAに基づく登録を行うことによりFARA登録を免れる仕組みが設けられたからである。司法省監察総監の2016年監査は、1966年から2015年までの50年間に司法省が提起したFARA刑事事件が7件にとどまったことを指摘し、FARA登録者の減少についてLDAによる適用除外等が一因と認識されていたことも紹介している[4]。
筆者は、この変化を単なる「FARAの執行不振」とは捉えない。より重要なのは、LDAの成立によって、本来FARAが捕捉し得た外国関係ロビイングの一部が一般的なロビイング開示制度の側へ制度的に移されたことである。すなわち、FARAの射程そのものが他制度との関係によって周縁化したのである。FARA、LDA、§951は独立した三つの法律であるが、実際の規制領域はそれぞれの適用範囲と例外の接合によって形成される。この意味で、米国の外国代理人規制は典型的な複合制度である。米国の一般的なロビー活動規制及びFARAとの関係については中村参照。本稿はその制度的接合を複合制度として分析する[5]。
もっとも、FARAがその後も一貫して執行されなかったわけではない。2016年米大統領選挙への外国介入をめぐる捜査以降、FARAは再び積極的な執行対象となった。Paul Manafort事件ではFARA上の登録義務に関係する虚偽申告等が問題となり、2018年に有罪答弁がなされた。Maria Butina事件では、外国政府関係者の指揮・統制下での無届活動をめぐり、2018年に§951違反を目的とする共謀罪について有罪答弁がなされた。司法省National Security Divisionも、その後FARAの登録・執行状況を継続的に公表し、刑事事件に加えて民事的執行や登録促進を含むコンプライアンス確保を強化している[6]。
この執行強化は「FARA周縁化」という見方と矛盾しない。周縁化とは執行放棄を意味するのではなく、どの活動がFARAの内部に残り、どの活動がLDAその他の制度へ移されるのかという制度上の射程の問題である。FARAの射程が狭められたとしても、その残された領域について執行密度を高めることは可能である。規制対象の広さと、対象となった領域に対する執行の強さは区別しなければならない。
3 豪州――広く捕捉しながら、十分に執行できるか
豪州では2018年、Foreign Influence Transparency Scheme Act 2018によってForeign Influence Transparency Scheme(FITS)が導入された。同時期にNational Security Legislation Amendment (Espionage and Foreign Interference) Act 2018による刑法改正が行われ、外国干渉犯罪も整備された[7]。
FITSは外国主体のために一定の政治的・政府的影響活動を行う場合に登録を求める透明性制度である。他方、Criminal Code Division 92の外国干渉犯罪は、外国主体のために、または外国主体と共同して行われる一定の行為について、政治・政府過程等への影響を目的とし、その行為が秘密裡である、欺罔を伴う、重大な危害を加える旨の脅迫を伴うなどの場合に刑事責任を問う[8]。
Division 92は、故意又は無謀による外国干渉を犯罪とするとともに、外国干渉犯罪の準備・計画についても独立の犯罪を設けている[9]。なお、FITS Actにおけるforeign principalとCriminal Code s 90.2のforeign principalは、その定義範囲が完全に同一ではない[10]。
豪州の特徴は、外国による影響を一律に違法化するのではなく、公開された外国影響と不正な外国干渉を制度上切り分けようとした点にある。透明性を要求する領域と刑事処罰する領域をほぼ同時期の制度改革で整備した点で、既存制度の長期的な境界調整から現在の構造が生まれた米国とは形成過程が異なる。
もっとも、制度の射程を広く設計すれば実効性が自動的に高まるわけではない。豪州議会情報安全保障合同委員会(PJCIS)は2024年、FITSについて登録件数の少なさ、コンプライアンス・執行活動の限定性などを問題視し、大幅な改革を求めた[11]。高等教育部門については、他の外国関係規制との重複による負担も指摘されている[12]。
ここで生じている問題は、米国FARAにおけるLDA適用除外とは異なる。米国の場合には、法律上の境界設定によってFARAの捕捉範囲そのものが狭められる「制度設計上の過少包摂」が問題となる。これに対して豪州では、制度上は対象となり得る活動が存在しても、登録、調査、執行が十分に行われなければ実際には可視化されない。「執行上の過少執行」の問題である。この区別は、制度改正によって対象範囲を広げるべき問題と、執行資源・権限・運用を改善すべき問題とを峻別するために重要である。
4 英国――国家安全保障法制の中で段階的規制を構成する
英国はNational Security Act 2023によって国家安全保障法制を大幅に再編した。同法13条はforeign interferenceの犯罪類型を設け、外国勢力との一定の関係を前提として、犯罪行為、強制、虚偽表示などの禁止行為を用い、政治・政府過程等に干渉効果を生じさせることを目的とする行為等を刑事規制する[13]。
同時に同法Part 4はForeign Influence Registration Scheme(FIRS)を創設し、2025年7月1日に施行された。FIRSはpolitical influence tierとenhanced tierの二層から構成される。前者は外国勢力の指示に基づく一定の政治的影響活動について透明性を求め、後者は国家安全保障上特に高いリスクを持つと指定された外国勢力等との関係について、より広い活動を登録対象とする[14]。
なお、同法s 18は一定の国家安全保障犯罪等について独立のpreparatory conduct offenceを設けている。ただし、s 13のforeign interference offence一般を包括的に準備罪化するものではない[15]。
また、National Security Act 2023はIndependent Reviewer of State Threats Legislationによる独立レビューの仕組みを備えている。刑事規制及び登録制度の強度だけでなく、その運用に対する独立した監督・レビューも、外国干渉防止法制を構成する制度要素として位置づけられる[16]。
英国型の特徴は、単に「登録制度+犯罪」を置くことではなく、リスクに応じて規制密度を段階化した点にある。通常の外国影響活動については開示を基本とし、高リスク主体との関係についてはより強い透明性義務を課し、さらに秘密性、欺罔性、強制等を伴う干渉行為には刑事法を用いる。こうした規制強度の段階化は、規制理論におけるresponsive regulationやenforcement pyramidの発想とも接続し得る。もっとも、本稿の複合制度論が特に着目するのは、単に違反の程度に応じて制裁を強めることではなく、そもそも外国影響という対象自体が直接観察しにくいため、異なる代理指標ごとに異なる規制技術を配置する必要が生じる点である[17]。
もっとも、対象を広げれば過剰包摂の問題が生じる。制度形成過程では、大学、研究機関、企業等から、学術・研究・商業活動への萎縮効果や過大なコンプライアンス負担への懸念が示された。政府はconsultationを受け、study activitiesなどについて追加的な適用除外を設け、研究・大学向けの個別ガイダンスも整備した[18]。外国影響登録制度は「不正な活動を登録する制度」ではない。正当な研究、企業活動、政策提言も制度上の要件に触れ得る以上、対象範囲を広げすぎれば、登録義務自体がスティグマとなり、活動を萎縮させる。適用除外を広くしすぎれば過少包摂となり、狭くしすぎれば過剰包摂となる。この境界こそ制度設計の中心である。
5 カナダ――独立Commissionerによる透明性モデル
カナダでは、2024年成立のCountering Foreign Interference Actによって、CSIS Act、Foreign Interference and Security of Information Act、Canada Evidence Act等を含む外国干渉対策全体が改編され、その一部としてForeign Influence Transparency and Accountability Act(FITAA)が制定された[19]。本節では、そのうち独立Commissionerによる透明性規制に焦点を当てる。FITAAは2026年8月4日に施行され、同日、Anton Boegmanが初代Foreign Influence Transparency Commissionerに就任した[20]。
FITAAは、foreign principal(外国主体)とのarrangementに基づいてカナダの政治的・政府的過程に影響を及ぼす一定の活動を行う場合に登録を求める。対象には、公職者とのコミュニケーション、政治的・政府的過程に関する情報の伝達・拡散、金銭その他の価値やサービスの提供などが含まれる[21]。
他方、Commissionerの解釈指針は、外国政府と同じ政治的見解を持つこと、外国人と会合すること、文化的・知的交流を行うこと、外国から資金提供を受けることなどだけで当然にarrangementが成立するものではないことを明示している。弁護士についても、秘匿特権の対象となる法的助言それ自体と、外国主体のために政府へ働きかける政策影響活動とを区別する考え方が示されている[22]。
ここでも重要なのは、単一の事実ではなく複数要素の組合せによって対象を画定することである。外国資金の存在だけで登録義務を生じさせれば過剰包摂になりやすい。他方、正式な代理契約だけを要求すれば、実質的な指示・協調関係を取り逃がす。arrangementという概念は、その間を捕捉しようとする制度的装置と見ることができる。
また、登録制度の運用を警察や情報機関ではなく独立Commissionerに担わせた点も注目される。透明性規制を国家安全保障政策の一部としながら、日常的な登録判断を直ちに刑事捜査や情報活動と一体化させない。これは、登録制度を「安全保障上の容疑者名簿」と見せないためにも意味を持つ。もっとも、登録制度は外国干渉そのものを防止する万能な装置ではない。その役割は、外国影響の一定部分を可視化し、秘密性を利用できる余地を狭めることにある。
もっとも、独立Commissionerという行政モデル自体は、カナダにとって全く新しいものではない。カナダには従来から一般的なロビー活動規制についてCommissioner of Lobbyingが存在し、登録制度を運用してきた。その意味で、既存のカナダ行政法制にも独立Commissioner型のロビー規制が存在する中、外国影響透明化制度についても専任のForeign Influence Transparency Commissionerが置かれたと位置づけるのが正確である[23]。
6 四か国の違いをどう読むか――複合制度と政策拡散
以上の比較から、四か国には異なる制度形成の経路があることがわかる。米国では、FARA、LDA、§951という異なる時期・目的で成立した制度の境界調整によって現在の規制領域が形成された。豪州では、外国干渉を新たな安全保障上の脅威として捉え、透明性制度と刑事規制を同時期に再設計した。英国は、透明性制度と外国干渉犯罪をNational Security Act 2023という一つの安全保障法体系の中に位置づけ、リスクに応じて規制密度を段階化した。カナダは、新たな登録制度を設けながら、その運用を独立Commissionerに委ねるモデルを採用した。
ここで複合制度という考え方は、単なる分類以上の意味を持つ。外国による政治的影響力を直接観察できない以上、法制度は代理関係、資金、指示・統制、活動内容、秘密性、欺罔性など複数の代理指標を利用せざるを得ない。そして、どの指標をどの規制技術に接続するかによって制度の性格が決まる。外国から資金を受けたという事実だけで活動を禁止すれば過剰包摂になりやすい。他方、明白な指揮・統制関係だけを要件にすれば、非公式な影響活動を大量に取り逃がす可能性がある。そこで、一定の関係については開示を求め、特定の資金提供については禁止し、秘密・欺罔・威迫など強い不正性を示す指標が加わった場合には刑事罰を用いるという複数の制度の組合せが合理性を持つ。
ただし、この説明だけで四か国の制度的類似を説明し切ることはできない。豪州、英国、カナダは、先行する米国や相互の制度を参照しながら制度を設計している。したがって、現在観察される複合構造には、問題の性質から生じる「機能的収斂」と、同盟国間における「政策拡散」の双方が含まれていると考えるのが妥当である。一方、フランスの2024年法は、Five Eyes外でも複数の規制技術を組み合わせる方向が現れていることを示している[24]。これは複合制度論の一般化可能性を示唆するが、一例だけで結論することもできない。
具体的には、フランスの2024年法は、外国勢力のために活動する者の登録、アルゴリズムによる干渉検知、資産凍結、外国勢力の利益のために行われた犯罪の刑罰加重という四つの機能を同一の改革の中で組み合わせている。この点は、機能的収斂という仮説の根拠を具体的に示す材料となる。
したがって、本稿の主張は「外国干渉規制は必ず同じ制度になる」というものではない。より限定的には、外国影響という観察困難な対象を規制する場合、複数の代理指標と異なる強度の規制技術を組み合わせる必要が生じやすく、その具体的な組合せは既存法制と政策拡散の影響を受けて形成される、という仮説である。
7 外国干渉規制は、どのように失敗するのか
この観点から見ると、外国干渉防止法制には少なくとも四種類の失敗がある。第一は、制度設計上の過少包摂である。本来可視化すべき活動について、法律上の適用除外や狭い定義によって規制対象そのものから外してしまう場合である。米国におけるLDA適用除外とFARAの関係は、その典型的な検討対象となる。第二は、執行上の過少執行である。制度上は登録義務や規制対象が存在しても、登録促進、調査、行政的執行、刑事執行が十分でなければ制度は実際には機能しない。豪州FITSに対するPJCISの評価は、この問題を示している。第三は、過剰包摂である。外国との正当な交流、研究、報道、ロビイング、市民社会活動等まで広く捕捉し、コンプライアンス負担や社会的スティグマによって活動を萎縮させる場合である。英国における学術・研究分野への配慮は、この問題が制度設計上現実のものとなることを示している。
豪州についても、福田論文は、外国主体概念や保護情報の広さから公益的報道まで広く該当し得るとの指摘を紹介している[25]。
第四は、選択的執行である。条文上は中立的な制度であっても、特定の国、政治的立場、団体、活動に対してのみ積極的に調査・執行されれば、透明性制度は政治的統制の手段に転化し得る。International Center for Not-for-Profit Law(ICNL)は、FARAの広範で不明確な規定が政府に大きな執行裁量を与え、政治的に不都合な非営利団体や活動家等に対して制度が利用される危険を指摘している[26]。もちろん、こうした指摘自体が個々の執行の不当性を証明するものではない。しかし、外国代理人規制が表現、請願、結社、政策参加に直接触れる制度である以上、執行の中立性は独立した制度設計問題として扱う必要がある。
過少執行への対策として執行権限を強化すれば、選択的執行の危険も同時に高まり得る。したがって、執行基準の公表、理由提示、行政的不服申立てや司法審査、定期的な統計公表など、執行裁量を可視化する仕組みが必要になる。外国干渉防止法制の課題は規制量の最大化ではない。誰を、何を根拠に、どの強度で規制するのかを予測可能な形で設計し、その運用自体も透明化することにある。
8 日本では、境界線をどう設計するか
自由民主党インテリジェンス戦略本部は2026年8月5日、「我が国の『情報防衛力』の強化に向けて――開かれた社会を、隠れた工作から守る」と題する提言を公表した。同提言は「抑止」「収集」「監督」を三本柱とし、「外国代理人の登録等義務や不正な干渉行為を処罰する『外国干渉防止法(仮称)』」の検討を掲げている[27]。
もっとも、日本には外国主体に関係する規制が全くないわけではない。政治資金規正法22条の5は、外国人、外国法人等から政治活動に関する寄附を受けることを原則として禁止しており、これは透明性規制ではなく一定の外国資金を政治過程から排除する禁止型規制である[28]。特定秘密保護法や重要経済安保情報に関する制度は、安全保障上重要な情報の漏えい等に対して刑事罰その他の統制を置く情報保護・刑事規制である[29]。他方、日本には、外国主体との関係に基づいて行われる政策影響活動について、その関係自体を包括的に可視化する制度はなく、米国LDAに相当する一般的なロビイング開示制度も存在しない[30]。
したがって、日本における外国干渉防止法制の検討では、どの規制領域が既存法によって既に担われ、どの領域がなお制度的に空白となっているのかを区別することが前提となる。
第一に問題となるのは、外国主体とのどのような関係を透明性規制の対象とするかである。外国からの資金提供、外国人との接触、代理関係、指示、協調関係などは、いずれも外国影響を把握するための代理指標となり得る。しかし、各国制度の比較が示すように、単一の事実だけを登録義務の発生要件とすると、過剰包摂または過少包摂が生じ得る。外交活動、法律業務、報道、学術研究、商業活動等についてどの範囲で適用除外を設けるかも、透明性規制の射程を決定する重要な問題となる。
第二に、外国主体との関係を可視化することと、政策参加そのものを規制することとは区別される。憲法16条は、何人にも平穏に請願する権利を保障している。外国政府と一定の関係を持つ在日外国人団体や国際NGOが、国会や行政機関に対して法改正を求める場合、外国との関係の存在と、請願・政策提言そのものの法的評価とは同一ではない。問題となるのは、どのような代理・指示関係を開示対象とするか、そして開示義務と政策参加の自由との境界をどのように画定するかである。
第三に、刑事規制をどの段階から発動するかが問題となる。豪州・英国は、外国主体との関係に加え、秘密性、欺罔性、威迫等の不正性を刑事責任の要素としている。他方、米国§951は外国政府とのdirection or controlという関係を主要な入口とする。これらの制度は、外国主体との関係、不正な行為態様、刑事法の介入時点を異なる方法で組み合わせている。その際、基本犯罪の構成要件だけでなく、未遂・共謀・準備罪等を含む犯罪体系全体から介入時点を評価する必要がある。日本においても、通常のロビイング、請願、報道、研究と犯罪となる外国干渉との境界を、どの構成要件によって示すかが立法上の主要論点となる。
第四に、執行体制の設計がある。登録制度の実効性を高めるためには一定の調査・是正権限が必要となり得る一方、執行裁量が拡大すれば選択的執行の問題も生じる。米国、豪州、英国、カナダでは、司法審査、独立Commissioner、外部レビュー、執行情報の公表等によって、異なる形で執行権限を統制している。日本においても、登録判断を行う機関と重大な外国干渉を捜査する機関との関係を含め、透明性制度と安全保障執行との制度的距離が検討課題となる。
以上から、日本における外国干渉防止法制の検討は、単に外国代理人登録制度や外国干渉罪を導入するか否かという問題には還元できない。透明性規制の対象、刑事規制の成立要件、適用除外、政策参加の自由との境界、執行機関の権限と統制をどのように組み合わせるかという複数の制度選択から構成される問題である。
9 外国干渉防止法とは、正当な影響と不正な干渉の境界を作る制度である
外国干渉防止法制の目的を「外国からの影響を排除すること」と理解すると、制度の実際の構造を捉えにくい。民主主義国家は外国から隔離されて存在しているわけではなく、外交、貿易、投資、ロビイング、研究、報道、市民社会活動を通じて、外国からの影響は常に存在する。
問題となるのは外国影響の存在そのものではなく、その影響が誰のために、どのような関係の下で、どのような手段によって行われているかである。外国による政治的影響力そのものは直接観察しにくい。そのため法制度は、代理関係、資金、活動内容、秘密性、欺罔性等の複数の代理指標を用い、透明性規制、禁止規制、刑事規制を組み合わせて外国影響を捕捉している。
米国ではFARA、LDA、§951の境界調整によって現在の構造が形成された。豪州は透明性制度と刑事規制を同時期に再設計した。英国はリスクに応じて規制密度を段階化し、カナダは独立Commissionerによる透明性制度を採用した。Five Eyes外でも、フランスに複数の規制技術を組み合わせる制度構造が現れている。
もっとも、こうした類似が、外国干渉という政策問題の性質から生じる機能的収斂によるものなのか、同盟国間の政策拡散によるものなのかは、なお検証を要する。また、各国制度には、制度設計上の過少包摂、執行上の過少執行、過剰包摂、選択的執行という異なる失敗の可能性が存在する。
同時に、本稿で扱った登録制度や代理人規制だけが外国干渉防止法制のすべてではない。匿名アカウント、ボット、AI等を用いた分散型のSNS工作のように、代理関係そのものを特定しにくい外国干渉については、情報収集、広告透明性、プラットフォーム規律、サイバー対策等を含む別の制度的分析が必要となる。この点は本稿の射程外であり、今後の検討課題である。
本稿の比較から確認できるのは、外国干渉防止法制が単一の外国モデルにそのまま還元できるものではないという点である。何を可視化し、何を禁止し、どの段階から刑事法を用い、何を通常の政治参加、ロビイング、研究、報道等として規制の外に残すのか。そして、それらの境界をどの機関がどのような手続によって維持するのか。各国制度の違いは、外国干渉規制の中心が個別の法制度そのものではなく、これらの境界の配置にあることを示している。
(ふじ・おさむ:富士修法律事務所 代表弁護士)
[1] Loi n° 2024-850 du 25 juillet 2024 visant à prévenir les ingérences étrangères en France; Haute Autorité pour la transparence de la vie publique(HATVP)関係資料;奈良詩織「【フランス】外国の干渉を防止するための法律」『外国の立法』301-2号(2024年)16-17頁。
[2] U.S. Department of Justice, Foreign Agents Registration Act 関係資料。
[3] 18 U.S.C. §951.
[4] U.S. Department of Justice, Office of the Inspector General, Audit of the National Security Division’s Enforcement and Administration of the Foreign Agents Registration Act(2016).
[5] 中村絢子「諸外国におけるロビー活動規制」『レファレンス』888号(2024年)111頁以下。
[6] United States v. Paul J. Manafort, Jr. (2018), charging and plea materials; United States v. Maria Butina (2018), plea materials; U.S. Department of Justice, National Security Division, FARA enforcement and reporting materials.
[7] Foreign Influence Transparency Scheme Act 2018 (Cth); National Security Legislation Amendment (Espionage and Foreign Interference) Act 2018 (Cth); 福田健志「オーストラリアとイギリスのスパイ行為等に対する罰則」『レファレンス』905号(2026年)53頁以下。
[8] Criminal Code Act 1995 (Cth), Division 92.
[9] 福田健志「オーストラリアとイギリスのスパイ行為等に対する罰則」『レファレンス』905号(2026年)53頁以下。
[10] 福田健志「オーストラリアとイギリスのスパイ行為等に対する罰則」『レファレンス』905号(2026年)53頁以下。
[11] Parliamentary Joint Committee on Intelligence and Security, Review of the Foreign Influence Transparency Scheme Act 2018(2024).
[12] Ibid.
[13] National Security Act 2023(UK), ss 13–15.
[14] UK Home Office, Foreign Influence Registration Scheme guidance.
[15] National Security Act 2023 (UK), s 18.
[16] National Security Act 2023 (UK); Independent Reviewer of State Threats Legislation関係資料。
[17] Ian Ayres & John Braithwaite, Responsive Regulation: Transcending the Deregulation Debate(Oxford University Press, 1992). 本稿の複合制度論は規制強度の段階化という点でresponsive regulationと接続し得るが、外国影響の観察困難性と複数の代理指標の組合せに分析の重点を置く。
[18] UK Home Office, Foreign Influence Registration Scheme: Consultation Response; academia and research sector guidance.
[19] 河合美穂「【カナダ】外国影響透明化及び説明責任法の制定」『外国の立法』305-1号(2025年)6-7頁。
[20] Foreign Influence Transparency and Accountability Act; Public Safety Canada, 4 August 2026.
[21] Office of the Foreign Influence Transparency Commissioner, Interpretation Bulletin on Influence Activities.
[22] Office of the Foreign Influence Transparency Commissioner, Interpretation Bulletins on arrangements, foreign principals and licensed legal professionals.
[23] 中村絢子「諸外国におけるロビー活動規制」『レファレンス』888号(2024年)111頁以下。
[24] Loi n° 2024-850 du 25 juillet 2024; HATVP, foreign influence transparency materials.
[25] 福田健志「オーストラリアとイギリスのスパイ行為等に対する罰則」『レファレンス』905号(2026年)53頁以下。
[26] International Center for Not-for-Profit Law, Nick Robinson, “Foreign Agents” in an Interconnected World: FARA and the Weaponization of Transparency; ICNL, Reforming the Foreign Agents Registration Act to Protect U.S. Nonprofits(2026).
[27] 自由民主党インテリジェンス戦略本部「我が国の『情報防衛力』の強化に向けて――開かれた社会を、隠れた工作から守る」2026年8月5日。
[28] 政治資金規正法22条の5。
[29] 特定秘密の保護に関する法律、重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律。
[30] OECD, Anti-Corruption and Integrity Outlook 2024 – Country Notes: Japan (2024).
