目次
1 問題の所在
2 米国――代理関係を入口とする早期介入
3 豪州――完成罪を限定し、準備罪で介入を前倒しする
4 英国――不正性を基本犯罪の内部に組み込む
5 三国は異なる場所で同じトレードオフを処理している
6 日本ではどのトレードオフを選択するのか
7 結語
要旨
本稿は、外国干渉に対する刑事規制について、米国18 U.S.C. §951、豪州Criminal Code Act 1995 Division 92、英国National Security Act 2023の外国干渉罪を比較し、刑事法がどの段階で発動するかという観点から制度構造の相違を検討する。本稿の目的は三制度の広狭や優劣を判定することではない。米国、豪州、英国は、早期介入と過剰包摂の抑制という共通の緊張に対し、それぞれ異なる場所に刑罰権の境界を配置しており、この比較そのものが、単一の標準モデルが存在しないことを示す発見となる。米国§951は外国政府との代理関係を早期介入の入口とする一方、実際の事件選択に執行裁量が大きな役割を果たし、豪州は完成罪を限定する一方で準備罪が刑罰権の射程を前方へ広げ、英国は構成要件の内部に不正性を組み込みつつ独立レビューを制度化しているが運用実績は乏しい。その上で本稿は、日本における制度設計を特定の外国モデルの選択問題としてではなく、日本国憲法31条の明確性原則を含む日本法の制度的条件の下で、早期介入能力と刑罰権の統制をどのように組み合わせるかという問題として検討する。
キーワード: 外国干渉罪、18 U.S.C. §951、FARA、外国代理人登録制度、National Security Act 2023、Foreign Influence Registration Scheme(FIRS)、Foreign Influence Transparency Scheme(FITS)、外国干渉、準備罪、執行裁量、独立レビュー
1 問題の所在
外国政府その他の外国主体による政治過程への不透明な介入に対し、日本でも外国干渉行為に対する刑事規制が議論されるようになっている。これと並行して外国代理人登録制度も検討されているが、両者は規制目的と法的効果を異にする。本稿の対象は、後者の透明性規制ではなく、外国干渉に対して国家がどの段階から刑罰権を発動するかという問題である。
外国干渉に対する刑事規制について、米国、豪州、英国は異なる制度を採っている。米国の18 U.S.C. §951は、外国政府のagentとして必要な通知をせずに活動することを犯罪とする。他方、豪州のCriminal Code Act 1995 Division 92及び英国のNational Security Act 2023は、外国主体との関係に加えて、一定の不正な行為態様や政治・政府過程等への干渉を犯罪成立の要素としている[1]。
本稿の目的は、これら三制度について、いずれが「広い」「狭い」、あるいは「優れている」と評価することではない。比較すべきなのは、外国主体とのどのような関係を刑事責任の入口とするのか、どのような行為上の不正性を要求するのか、どの段階から刑事法による介入を可能とするのか、そして刑罰権の行使をどのように統制・検証するのかという制度構造である。
本稿が検討するのは、早期介入と過剰包摂の抑制という共通の緊張に対し、三国が刑罰権の境界を制度体系のどこに配置しているかである。この比較を通じ、日本で外国干渉に対する刑事規制を設計する際に、外国モデルをどのような観点から参照すべきかを検討する。
2 米国――代理関係を入口とする早期介入
18 U.S.C. §951(a)は、一定の例外を除き、司法長官への必要な事前通知を行わず、米国内で外国政府のagentとして活動した者について、10年以下の拘禁刑等を定めている。その中心にあるのがagent概念であり、§951(d)は、外国政府またはその職員の「direction or control」の下で米国内において活動することに合意した個人を基本的な対象としている[2]。
したがって、外国政府と接触したこと、外国政府と共通する政治的立場を取ったこと、外国政府に有利な政策を主張したことだけで§951上のagentとなるわけではない。外国政府またはその職員のdirection or controlの下で活動するという関係が必要である。
他方、いったんこの関係が成立した後に要求される行為の範囲は広い。第7巡回区はUnited States v. Ji Chaoqunにおいて、§951が特定種類の行為だけを対象とするものではなく、外国政府とのagent-principal relationshipの下で米国内において行われる行為を広く捕捉するとの理解を示した[3]。Liang事件の2025年1月14日付Order on Motions in LimineもChaoqunを引用している[4]。
ここに§951の特徴がある。外国政府とのdirection or controlという比較的強い関係要件を置く一方、その関係の下で行われる活動について、欺罔、威迫、政治的干渉効果等を一般的な追加要件として要求しない。このため、具体的な政治的害悪や不正な干渉行為の完成を待たず、外国政府との一定の代理関係の下で無届活動を行う段階から刑事法が介入し得る。
この早期介入能力は、外国政府による秘密工作を防止するという観点からみれば§951の重要な特徴である。外国政府の指示・統制下にあることが立証されているにもかかわらず、具体的な政治的干渉や欺罔行為が完成するまで介入できない制度が常に実効的とは限らない。
もっとも、近年の公開事例が、§951による「ごく初期の段階」での介入を実証しているわけではない。2026年6月4日に§951違反について有罪答弁したThomas Weir Pauken IIについて、司法省は、情報収集のtasking、報告、通信機器の提供、報酬等を伴う具体的な活動を指摘している[5]。2025年のYuance Chen及びLiren Lai事件でも、中国国家安全部との具体的なtaskingや情報収集等が訴追事実として主張されている[6]。これらはいずれも相当程度進行した活動を伴う事案であり、§951の早期介入能力そのものを実証するものというより、同条が実際にどのような事件で用いられているかを示す材料と位置付けるべきである。
また、§951の関係要件が常に容易に立証できるわけでもない。Thomas Barrack及びMatthew Grimesは、アラブ首長国連邦(UAE)のために米国の政治過程へ影響を及ぼしたとして§951違反等で起訴されたが、2022年11月、陪審は両名について無罪評決を出した[7]。無罪評決から陪審が具体的にどの要件について合理的疑いを認めたかを特定することはできないものの、外国政府との接触やその利益に沿う政治的活動が主張されたとしても、それだけで§951上のagentとしての刑事責任が成立するわけではないことを示す事例である。
この点は§951の過剰包摂リスクを考える上でも重要である。同条は、政治的影響、欺罔、威迫等を一般的な追加要件として要求しないため、政治・政策活動との境界が問題となり得る。他方、Barrack事件は、外国政府との関係を刑事責任の入口とする場合にも、その関係自体の立証が独立した問題となることを示している。
さらに、条文上の射程と実際の訴追範囲は一致しない。司法省のJustice Manualは、連邦検察官に、誰を、いつ、どのように訴追するか、さらには訴追するか否かについて広い裁量を認めている[8]。§951は、外国政府との関係要件によって早期介入を可能とする一方、法律上の射程と実際の刑事事件化との間に、司法による関係要件の審査と執行機関による事件選択という調整過程を残している。
3 豪州――完成罪を限定し、外国干渉罪専用の準備罪で介入を前倒しする
豪州では2018年、Criminal Code Act 1995のDivision 92に外国干渉犯罪が導入された。92.2条のintentional foreign interferenceは、外国主体のため[9]、外国主体と共同して、または外国主体による指示、資金提供、監督等の下で行われる行為を対象とする[10]。
もっとも、外国主体との関係だけでは犯罪にならない。一般類型では、政治・政府過程への影響、民主的・政治的権利義務の行使への影響、外国主体の情報活動への支援、豪州の国家安全保障への害等を意図することが要求される。さらに、行為の一部がcovertまたはdeceptiveであること、重大な危害を加える旨のthreatまたはmenacesを伴うことなどが必要となる[11]。
豪州法は、外国主体との関係だけでなく、行為の目的と不正な態様を完成罪の内部に組み込んでいる。この意味では、通常の外国影響活動と犯罪となる外国干渉との境界を、基本犯罪の構成要件によって詳細に示そうとする制度である。
しかし、豪州法は完成罪だけでは理解できない。92.4条は、外国干渉犯罪をprepareまたはplanする意図をもってconductを行ったこと自体を犯罪としており、完成した外国干渉が実行される必要はない[12]。完成罪について詳細な限定を置く一方、準備罪によって刑事法の介入時点を前倒ししている[13]。
Di Sanh Duong事件は、この構造を具体的に示す。Duongは、2018年の外国干渉罪導入後、豪州で初めて同制度の下で有罪判決を受けた。検察側は、Duongがコミュニティ活動を行いながら、COVID-19対策に関連する寄附に当時の移民担当閣僚Alan Tudgeを関与させ、将来的に中国共産党及びその利益に有利な立場を採用させようとしたと主張した。また、中国共産党統一戦線工作部等との関係を隠していたとされた。Duongが有罪となったのは、完成したintentional foreign interferenceではなく、92.4条のpreparing or planningであった[14]。
完成した政治的干渉の発生前に介入できたという点では、準備罪の実効性を示す事例である。他方、完成罪にcovert、deceptive等の限定を設けても、準備罪によってより早い段階の行為を処罰できるのであれば、刑罰権の広がりは完成罪の条文だけから判断できない。
2026年7月23日に豪州議会へ提出されたIndependent National Security Legislation Monitor(INSLM)のレビューも、こうした犯罪体系の複雑性や広がりを再検討した。同レビューは、多くの国家安全保障犯罪が引き続き必要であるとしつつ、制度の一部を「unnecessarily complex, overly broad or redundant」と評価し、一定の準備犯罪について見直しを勧告している[15]。これは豪州制度が失敗したことを意味するものではない。しかし、完成罪を詳細に限定し、別途準備罪を置くという設計も、早期介入と過剰包摂との緊張を解消するものではなく、その緊張を準備罪の射程へ移す可能性がある。
豪州ではさらに、一定の国家安全保障犯罪についてAttorney-Generalのwritten consentを要求する仕組みがあり、INSLMによる独立した事後レビューも存在する[16]。基本犯罪の構成要件だけでなく、準備犯罪、訴追手続、外部レビューを組み合わせて刑罰権を統制する点に特徴がある。
4 英国――不正性を基本犯罪の内部に組み込む
英国ではNational Security Act 2023の13条がforeign interference offenceを定める。同罪は、13条だけでなく、14条のinterference effect、15条のprohibited conduct、31条のforeign power conditionを組み合わせて構成される[17]。
foreign power conditionは、外国勢力のため、外国勢力を代理して、または外国勢力を利する意図をもって行われる一定の行為について成立する。しかし、それだけでは外国干渉罪にならない。
さらにprohibited conductが必要であり、犯罪を構成する行為、coercionを伴う行為、misrepresentationを伴う行為などが含まれる[18]。加えて、公的機能の行使、政治過程または政治的意思決定、法的手続、英国の安全または利益等への一定のinterference effectが要求される[19]。
したがって英国法は、外国勢力との関係、不正な行為、干渉対象・効果を基本犯罪の内部で結び付ける。外国政府との一定の関係を主要な入口として早期に介入する§951とは、刑罰権の境界の置き方が異なる。
もっとも、この構造が実際に過剰包摂を防止できるかについては、現時点で慎重な評価が必要である。misrepresentationやinterference effectは評価的な概念を含み、その解釈によっては政策活動、ジャーナリズム、研究、シンクタンク活動等との境界が問題となり得る。
National Security Act 2023に基づく有罪判決は既に現れている。他方、s 13のforeign interference offenceそのものについては、Wai・Yuen事件でも陪審が評決に至らず、本稿執筆時点では、米国§951や豪州Duong事件と同程度に制度の実際の射程を評価できる確定的な有罪例はなお限られている[20]。したがって、英国型については、条文構造の精緻さと実際の過剰包摂防止効果とを区別して評価する必要がある。
英国ではNational Security Act 2023の運用について、Independent Reviewer of State Threats Legislationによる継続的な事後レビューが制度化されている。National Security Act 2023の63条は、Part 1及びPart 2等の運用について毎年レビューを行う仕組みを設けており、Jonathan Hall KCが2024年2月に初代Independent Reviewer of State Threats Legislationに就任した[21]。Hallの最初の年次報告State Threats Legislation in 2024は2025年12月に公表され、政治活動、ジャーナリズム等への影響を含め、新制度の運用を検証対象としている[22]。
ただし、独立レビューは過剰な捜査や訴追を個別事件ごとに事前に停止する制度ではない。問題を可視化し、その後の制度運用や法改正につなげる事後的統制であり、その存在によって犯罪構成要件の広さや不明確さそのものが解消されるわけではない。
なお、英国法にも準備段階への独立した刑事介入規定が存在する。National Security Act 2023 s 18は、同法所定の一定の犯罪その他の重大行為についてpreparatory conduct offenceを設けている。ただし、s 13のforeign interference offence一般を包括的に準備罪化するものではなく、この点でDivision 92の外国干渉犯罪そのものについて準備・計画行為を処罰する豪州s 92.4とは構造が異なる[23]。
5 三国は異なる場所で同じトレードオフを処理している
外国干渉に対する刑事規制では、早期介入と過剰包摂の抑制が緊張関係に立ちやすい。外国干渉の効果や欺罔性が十分に現実化する前の段階では、正当な政治活動、情報収集、人的交流等と外国政府による不正な干渉とを区別するための客観的事情も少ない。その段階まで刑事法を前倒しすれば、外国干渉を未然に阻止できる可能性が高まる一方、適法な活動を捜査・処罰の射程に取り込む危険も増大する。逆に、具体的な不正行為や干渉効果を詳細に要求すれば、犯罪と適法行為との境界を法律上示しやすくなる一方、国家が介入できる時点は遅くなり得る。
三国の比較から明らかになるのは、この緊張に対する単一の解答が存在しないということである。
米国は、direction or controlという外国政府との関係を主要な入口とし、不正な干渉行為の完成前から介入できる。その一方で、実際の事件選択には訴追裁量が大きな意味を持ち、Barrack事件が示すように、政治的影響活動と外国政府との代理関係との境界は司法による判断の対象ともなる。
豪州は、完成罪では外国主体との関係に加えて不正な行為態様や一定の目的を要求する一方、外国干渉犯罪自体について独立の準備・計画罪を置く。英国にも一定の国家安全保障犯罪等を対象とする横断的な準備罪が存在するが、s 13の外国干渉罪一般について豪州s 92.4と同様の準備罪を置く構造ではない。
英国は、外国勢力との関係、不正な行為、干渉効果を基本犯罪の内部で結び付け、さらにindependent reviewerによる事後検証を置く。しかし、その評価的な構成要件が実際にどのような範囲で運用され、過剰包摂をどの程度防止するのかについては、なお評価材料が乏しい。
したがって、刑罰権の境界は基本犯罪の構成要件だけでは決まらない。関係要件、行為要件、準備犯罪、捜査・訴追裁量、司法審査、訴追手続、外部レビューを含む制度全体として評価する必要がある。
6 日本ではどのトレードオフを選択するのか
以上の比較から、米国型、豪州型、英国型のいずれかをそのまま日本に導入すべきだという結論は導かれない。日本で問うべきなのは、どの外国モデルが最も優れているかではなく、外国干渉への早期介入能力と刑罰権の統制を、日本の法制度の中でどのように両立させるかである。
その際、日本国憲法31条との関係で犯罪構成要件の明確性が重要となる。犯罪構成要件の明確性について、最高裁は徳島市公安条例事件において、通常の判断能力を有する一般人の理解を基準として、具体的場合に当該行為が適用対象となるかを判断できる基準が読み取れるかという観点を示している[24]。
外国主体との関係に加えて不正性を要求する英豪型の構造は、適法な活動と犯罪との境界を法律上示そうとする点で参照価値を持つ。しかし、covert、deceptive、misrepresentation、interference effect等はいずれも評価的要素を含む。構成要件を増やすことと、その構成要件が日本法上明確であることは同義ではない。
これに対して§951のdirection or controlは、行為が「欺罔的」であるか、「秘密」であるかといった行為の性質を直接評価するのではなく、外国政府またはその職員と行為者との間に一定の指示・統制関係が存在するかを問題とする。この点では、外部的な関係の存否を刑事責任の入口とする要件であり、covert、deceptive、misrepresentation等とは性質を異にする。外国政府からの具体的指示、tasking、報告関係、任務の付与、活動方法に対する統制等の客観的事情によって具体化できるのであれば、日本法上の明確性との関係でも一定の参照可能性を持ち得る。
もっとも、direction or control自体が一義的であるわけではない。ChaoqunやLiangにおいても、その概念の法的射程について司法的解釈が必要となっている。またBarrack事件の無罪評決が示すように、外国政府との頻繁な接触や、その利益に沿う政策活動が認められたとしても、それだけで§951上のagent関係が立証されたことにはならない[25]。問題は、direction or controlに解釈の余地がないということではなく、その判断を、外国政府との具体的な指示・統制関係を示す客観的事情にどこまで結び付けられるかである。
この点は、英豪型の評価的な行為要件との比較で重要となる。両者のどちらが日本国憲法31条の明確性の要請により適合するかは、本稿の比較だけから結論づけることはできない。しかし、「関係」を限定する方法と、「行為の不正性」を限定する方法では、明確性を確保するために必要となる立法技術が異なる可能性がある。
また、§951型の早期介入能力に参照価値を認めるとしても、その射程を警察・検察の一般的な裁量だけに委ねなければならないわけではない。強制捜査に対する司法的統制、特別な捜査・訴追手続、運用情報の公開、独立した事後レビュー等によって、構成要件以外の制度段階で刑罰権を統制する可能性もある。
逆に、独立レビューを設ければ構成要件上の問題が解決するわけでもない。独立reviewerは、不明確な犯罪構成要件を憲法上許容されるものに変える制度ではなく、個別事件における過剰な権限行使を当然に事前阻止するものでもない。構成要件の明確性、早期介入、捜査・訴追統制、事後的検証は、それぞれ異なる機能を持つ制度問題として区別して検討する必要がある。
したがって、日本における制度設計を特定国の制度の一括導入として考えるべきではない。しかし、それは各国制度から有利な部分だけを切り取ればよいという意味でもない。各制度要素が、それぞれの国の刑事司法、司法審査、訴追制度、議会統制等からどこまで切り離して日本法に移植できるのかを検討する必要がある。
具体的な「指示・統制」要件、不正な行為類型、準備段階への介入要件を日本法上どのように構成するかは、さらに検討を要する。本稿では、その前提として、日本版外国干渉罪を一つの外国モデルの選択問題として捉えるべきではないことを指摘するにとどめる。
7 結語
日本で問われるべきなのは、「米国型か英豪型か」というモデルの選択ではない。
外国干渉をどの段階で止める必要があるのか。そのためにどこまで刑事法を前倒しするのか。犯罪成立の境界を日本法上どこまで明確に定めることができるのか。そして、なお残る国家の裁量をどの制度によって統制するのか。
外国モデルの選択ではなく、早期介入、明確性、過剰包摂の抑制、執行統制という複数の要請を、日本法の制度的条件の下でどのように組み合わせるかを検討することが、日本版外国干渉罪の制度設計の出発点となる。
(ふじ・おさむ:富士修法律事務所 代表弁護士)
[1] 18 U.S.C. §951; Criminal Code Act 1995 (Cth), Division 92; National Security Act 2023 (UK), ss 13–15, 31. なお、豪州及び英国の国家安全保障犯罪について包括的に紹介する近時の邦語文献として、福田健志「オーストラリアとイギリスのスパイ行為等に対する罰則」レファレンス905号53頁以下(2026年)参照。
[2] 18 U.S.C. §951(a), (d).
[3] United States v. Ji Chaoqun, 107 F.4th 715, 728 (7th Cir. 2024).
[4] United States v. Liang, No. 1:23-cr-10130-IT, Order on Motions in Limine, Doc. 96 (D. Mass. Jan. 14, 2025). 同決定はChaoqunを引用している。本稿では、2024年7月16日付Liang決定についてagent概念に関する具体的判示を帰属させず、一次資料で確認できる2025年1月14日付決定を根拠とする。
[5] U.S. Department of Justice, “American Citizen Pleads Guilty to Working as an Agent for the People’s Republic of China,” June 4, 2026.
[6] U.S. Department of Justice, “Justice Department Charges Two Individuals with Acting as Agents of the PRC Government,” July 1, 2025. 本件は起訴段階であり、有罪認定ではない。
[7] United States v. Al Malik Alshahhi, Barrack, and Grimes, No. 1:21-cr-00371 (BMC) (E.D.N.Y.)(以下「Barrack事件」として引用する); U.S. Department of Justice, “Former Advisor to Presidential Candidate Among Three Defendants Charged with Acting as Agents of a Foreign Government,” July 20, 2021. Thomas J. Barrack Jr.及びMatthew Grimesは2022年11月4日、陪審により無罪評決を受けた。陪審評決には理由が付されないため、特定の構成要件について合理的疑いが認められたと断定するものではない。
[8] U.S. Department of Justice, Justice Manual §9-27.000, Principles of Federal Prosecution.
[9] foreign principalについて、福田健志「オーストラリアとイギリスのスパイ行為等に対する罰則」レファレンス905号53頁以下(2026年)は「外国の依頼人」と訳すが、本稿では、同概念が外国政府、政治組織、一定の国際機関等を包含する法定概念であることから「外国主体」と訳す。
[10] Criminal Code Act 1995 (Cth), s 92.2.
[11] Criminal Code Act 1995 (Cth), ss 92.2–92.3.
[12] Criminal Code Act 1995 (Cth), s 92.4.
[13] なお、本稿が比較対象とする各法域には、個別犯罪に付随する一般的な未遂・共謀等の未完成犯罪も存在する。豪州刑法典にもCriminal Code Act 1995 (Cth) Part 2.4にattempt、conspiracy等の一般規定があり、米国には18 U.S.C. §371の一般的conspiracyが、英国にはCriminal Law Act 1977 s 1のstatutory conspiracyがある。本稿で豪州s 92.4を特に取り上げるのは、豪州のみが完成前の行為を処罰し得るという趣旨ではなく、外国干渉犯罪自体について独立の準備・計画罪を明文で置いている点に着目するものである。
[14] Commonwealth Director of Public Prosecutions, “First criminal prosecution of foreign interference”; DPP v Duong, County Court of Victoria, Sentencing Remarks, 29 February 2024.
[15] Independent National Security Legislation Monitor, Espionage, Foreign Interference and Related Offences: Review of Division 82 and Part 5.2 of the Criminal Code Act 1995 (Cth), tabled 23 July 2026.
[16] Criminal Code Act 1995 (Cth), s 93.1; Independent National Security Legislation Monitor Act 2010 (Cth).
[17] National Security Act 2023 (UK), ss 13–15, 31.
[18] National Security Act 2023 (UK), s 15.
[19] National Security Act 2023 (UK), s 14.
[20] National Security Act 2023に基づく事件として、Crown Prosecution Service, “Two men charged with National Security Act offence,” 18 March 2026; Crown Prosecution Service, “UPDATED WITH SENTENCE: CPS secures convictions in Hong Kong unlawful surveillance case,” 18 June 2026参照。Chi Leung Wai及びChung Biu Yuenは、同法s 3のassisting a foreign intelligence serviceについて有罪となり、2026年6月18日、Old Baileyにおいてそれぞれ拘禁10年及び8年の判決を受けた。他方、両名について、同法s 13のforeign interference offenceに関する訴因については、陪審が評決に至らなかった。
[21] National Security Act 2023 (UK), s 63; Home Office, “Independent Reviewer of State Threat Legislation appointed,” 6 February 2024; Home Office, “Appointment extension of Jonathan Hall KC as independent reviewer,” 28 November 2024.
[22] Jonathan Hall KC, State Threats Legislation in 2024: Report of the Independent Reviewer of State Threats Legislation on the Operation of Parts 1 and 2 of the National Security Act 2023 and Schedule 3 to the Counter-Terrorism and Border Security Act 2019 (2025). 同報告は2025年12月16日に公表され、National Security Act 2023, s 63(6)に基づき議会へ提出された。
[23] National Security Act 2023 (UK), s 18. 同条は、s 1、s 2、s 4、s 12所定の犯罪その他一定の重大な暴力等について、その実行に至らない準備行為自体を独立して処罰し、最高刑は終身刑である。同条に基づく事件として、2025年10月24日、Central Criminal Courtは、Dylan Earl及びJake Reevesに対し、s 18の準備行為等を含む罪について有罪の答弁を受けて量刑を言い渡した。
[24] 日本国憲法31条。最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁(徳島市公安条例事件)参照。
[25] United States v. Ji Chaoqun, 107 F.4th 715, 728 (7th Cir. 2024); United States v. Liang, No. 1:23-cr-10130-IT, Order on Motions in Limine, Doc. 96 (D. Mass. Jan. 14, 2025); United States v. Al Malik Alshahhi, Barrack, and Grimes, No. 1:21-cr-00371 (BMC) (E.D.N.Y.).
